大体大先生リレーコラム「本物を学ぼう」 第37回「言葉の力と豊かな心で未来を創ろう」

筆者:蛯谷みさ(教育学部教授)

1.言葉の力
「人間全体が、ささやかな言葉の一つ一つに反映してしまう」――詩人の大岡信は、そう述べています。背筋がピッとなる言葉です。
皆さんも、「言葉の力」を実感する瞬間は多いのではないでしょうか。例えば、座右の銘や人生を変えた言葉、友達との会話で気持ちが伝わったときの喜び。逆に、うまく言えずもどかしい思いをした経験など。このように、言葉は人と人をつなぎ、心を育て、社会をつくる基盤となるものです。だからこそ「言葉の力」を育てることは、知識を身に付けるだけでなく、豊かな心と人間関係を築くために欠かせない営みなのです。

2.人を育てること、それは未来を創ること
子ども達を育てることは未来を創ること。このような夢、そしてそこに表裏一体としてある厳然たる責務を感じながら私はこれまで教育職に全身全霊を注いできました。子ども達の成長と笑顔にどれだけ喜びをいただけたことか! 勿論簡単に進まないこともあります。しかし、災い転じて福となす。その中で「言語能力と学級力の向上」が、いじめ等様々な課題解決の鍵であると捉え、解決を図ってきました。以来、授業改善と学級づくり、書く力と心を育てる「はがき新聞」を活用した「深い学び」指導法の開発?研究を行っています。
現在は、子ども達を教え導いてくれる未来の先生となる学生の皆さんに喜びをいただきながら、「子ども達のことをお願いします」と心を込めて、共に工夫改善と勉学に勤しんでいます。未来を創る為に「言葉の力」は欠かせません。
私は大学で、国語科教育を研究しています。中心にあるのは、「言葉の力」をどう育てるかという問いです。例えば、短作文を通じて、自分の考えを簡潔にまとめ、相手に伝える力を養う活動があります。小さな積み重ねですが、自分の思いを言葉にすることは、思考を整理し、判断する力を育みます。これは高校で行われている探究的な学習にも直結します。テーマを調べ、考え、自分の言葉で表現する、その一連の過程は、「言葉の力」を身に付け発揮する格好の場なのです。
また、「話すこと?聞くこと」も「言葉の力」を支える大切な営みです。発表やディスカッションで自分の意見を伝え、友達の話を受け止めて対話を深めることで、学びは広がります。私は地域の小学校との協働的な授業研究の中で「読む?書く?話す?聞く」を結びつける指導を大切にしています。例えば、説明文を読んで要点をまとめ、短い文章に書き、仲間と意見を交わす、そうした学びの流れの中で、一人一人の言葉が生き生きと働き始めるのです。
さらに、朗読や読み聞かせの体験も「言葉の力」を実感する場です。声に出して読むと、言葉の響きやリズムが心に届きます。学生が子ども達に絵本を読み聞かせるとき、目を輝かせて聞き入る姿に出会うことがあります。その瞬間、言葉が人の心を動かす力をまざまざと感じます。朗読は技能だけでなく、作品を通じて相手に寄り添い、心をつなぐ営みなのです。

3.豊かな心と本物の学びを
「言葉の力」は、一生を支える財産です。私の研究室では、その力を育てる教育と研究を理論と実践の両面から行っています。皆さんの日々の高校生活の中でも、自分の思いや考えを言葉にすることを大切にしてください。その積み重ねが、豊かな心を育て、未来を創る「本物の学び」へとつながっていくのですから。

【参考ウェブサイト】
日本学級力向上研究会ウェブサイト.
蛯谷みさ (2018年2月).「(14)いじめを乗り越えた学級力向上プロジェクト Part1 ─ はがき新聞で始める学級力向上」. 公益財団法人理想教育財団.
蛯谷みさ (2018年3月). 「(15)いじめを乗り越えた学級力向上プロジェクト Part2 ─ はがき新聞で始める学級力向上」. 公益財団法人理想教育財団.

キーワード | 言葉の力 豊かな心を育てる 未来を創る

蛯谷みさ教授
蛯谷みさ(教育学部教授)
専門は国語科教育、学級経営?学校経営、幼児教育。公立中学校教諭、教育センター情報教育部研修主事、公立小学校教諭、管理職を経て現職。教育全般に渡り問題解決に努める小中学校及び園の研究を支援し、理論と実践の往還により学生の指導力を強化している。日本学級力向上研究会理事。
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